マミヤC330プロフェッショナルf

Mamiya C330 Professional f


私の横浜を写すための、理想の写真機




66判(6×6)サイズの二眼レフカメラ。マミヤCシリーズは交換レンズ方式を採用した唯一の存在です。ピント合わせ機構には蛇腹繰り出し方式を採用しており二眼レフとしては驚異的な接写が可能となっています。セルフコッキング、二重露光防止と解除の機構をそなえ、豊富なアクセサリ(露出計付ファインダー等も用意されていた)等、66判の撮影機材として必要かつ充分なシステムを備えることができるカメラです。



C330の画像

写真:
マミヤC330プロフェッショナルf(セコール135mmF4.5付)



忘れもしない2003年3月1日、いつもお世話になっている西小山の写真屋さん、文化堂のご主人からゆずっていただきました。


それまで私はヤシカの二眼レフ(ヤシカフレックスA III)を使用していました。私は66判でモノクロの写真をはじめてみたい気になって、最初に入手したカメラがヤシカフレックスでした。銀座のスキヤカメラで文字通りの一目惚れ。プロの写真家は見向きもしない廉価なカメラで、機能的な制約も多い。それでも、とても気に入って使っていました。


私がなぜ二眼レフを使うのか、理由は簡単です。66判のカメラとしては小型軽量。レフレックス式のピント合わせができ、なおかつミラーショックがない。のんびり散歩しながら手持ちで撮る私のスタイルにぴったりな撮影機材なのです。


モノクロで横浜を撮るようになって、現像の質とかプリントの仕上がりとかにこだわりが出てきました。いろいろな店にプリント依頼を出してみて、一番満足を 得られたのがご近所の写真屋さん=文化堂さんでありました。ある日お店のご主人が私に


「二眼レフならこれがいいよ」


といって、棚から出してくれたのがマミヤC330でした・・・って、ずいぶん大きいカメラだ!見た目体積でヤシカの1.5倍、いやもっと巨大な印象です。しかも何かスゴそうなレンズが飛び出してるし(※それはマミヤセコール135mmF4.5でした)。


これはレンズもいいし接写もできる、とご主人は仰(おっしゃ)いました。さっそく触らせててもらう。よっこらしょ。お、重い。


折り畳まれたピントフードを引き上げてファインダーをのぞく。あれ?何も見えないじゃん。


ご主人に教わってレンズ繰り出しのつまみを回す。何と!蛇腹が伸びてる。うわっ何コレ!レンズボードがゆるゆると前に出てきました。そして3センチぐらい繰り出しているうちに、店の外の風景がピントグラスに浮き上がってきました。おお!


もっと寄れるよ、そのレンズでも1メートルぐらいに近づいて写せるよ、とご主人。私はレンズを店内の棚に向け、さらにツマミを回す。蛇腹がまだまだ伸びる。びろろーん。そしてご主人の後ろの棚にピントが合ったとき、その画像の巨大さに驚きました。レンズの焦点距離は135mmなので、とにかく引き寄せるのです。ヤシカのレンズは80mmですし、ここまで大写しできるほどは寄れません。それにしても蛇腹が伸びた状態のマミヤはスゴい外見だ・・・


ご主人はそれがかつてスタジオで使っていた事、オーバーホールに出して蛇腹が新品に交換されている事を語った後、このカメラを使ってみませんか?予備のピントフードや交換レンズもまとめてお譲りしますよ、と私に仰ったのです。なんでも、このカメラをゆずって欲しいと言っている人がいるけれど、自分としては好きな客にしか売りたくないのだ、みたいなことを仰っている(商売上手よのう)。


私はすっかりマミヤC330に惚れ込んでしまっていたので一気に胸が高まりました。


欲しい!


問題は値段です。そのカメラがいったいどのぐらいの値段なのか見当もつきません。ここで値段を聞いて高かったら困るな・・・ほかの店で相場を調べてみて、低めの値段から交渉してみよう。とっさにそう考えて、その日は「ちょっと考えてみます」と言って家に帰りました。


しかし家に帰ってからも興奮は覚めない。マミヤマミヤとうわごとのようにつぶやいてしまう。休日になったので、さっそく中古カメラ屋さんのリサーチに行き ました。うわっ、こんなに高いんだ!


マミヤCシリーズはレンズ交換式二眼レフとして最初のモデルC3が登場してからモデルチェンジと改良を繰り返し、C330という名になってからも多数のバリエーションが存在しています。要するに時代によって値段も違うという事です。そして私には当然モデルの区別がまったくわからない。文化堂さんにあったモノはいったい幾らなんだろう?ひとまず新宿のカメラ屋さんで見た、一番安かったC330+レンズの値段で交渉開始だなと決意しました。それでも私にはシンドい値段だ。しかもこの値段を口に出してあの頑固そうなご主人を怒らせたらヤだな、とおもいつつ文化堂に舞い戻りました。ご主人の顔色を見ながらおそるおそる低めの直球勝負。あのー・・・


「ううん、本当はもっとするんだけど・・・でもノドカさんならその値段でいいです」


と、あっさり商談成立。ひゃっほー。かくして文化堂さんのマミヤはショーケースから見えない位置に置かれ、私はせっせと金策に励みました。数日後、お金をにぎりしめて子供のように文化堂にとんでゆくエゾモモンガの姿が。おお、私はついにマミヤンになったのです。


ひとまず使い方を教わる。この複雑なメカを操る作法と言ってもヨイ。さすが電池不要の機械式カメラだけあって、これがまたメカニカルな感動に満ちているの ですよ。レバーを移動してハンドルをまわすとギヤが噛みロッドが動く・・・みたいな感じ。私は歯車とかクランクとか大好きなメカ人間なので嬉しくてしょう がないのでした。

残念ながらこの複雑なメカはこのカメラの弱点でもあります。あとになって、ギヤが噛み込んで動かなくなるトラブルに見舞われた事や、フィルム送り機構に誤差が生じて本来12枚撮れるはずが11枚しか撮れなかった、という事態も起こりました。そういう意味では初心者には敷居の高いカメラです。むしろメカ的にシンプルな簡略化モデル、C220の方がイザというときの信頼度は高いかもしれません。


さっそく横浜に持ち出して試写。大好きな山手周辺を歩いてきました。ヤシカは「首にぶらさげる」って感じだったけれど、巨大なマミヤではそうはいかない。 さながらアニメに出てくるロボットの武器の如し。「お気楽写真散歩」の枠を大幅に逸脱している自分を発見したのでありました。しかも普通に首にさげていたらたちまち貧血になってしまった。ということで、抱っこして歩く。重い・・・現在はリュックのショルダーストラップに固定して、首ではなく肩と背中に重量がかかるようにしています。


ある程度蛇腹を繰り出さないと無限遠にピントがこないため、慎重な撮影スタイルとなってきます。安全装置を解除し絞りとシャッタースピードをセット。フィルムを巻き上げると自動的にシャッターがチャージされる。息をとめて慎重にシャッターを切る。1枚を撮るのに非常に時間がかかります。しかし仕上がる写真は文句なしに素晴らしい。何よりも、撮影にあたっての自由度(シャッタースピードと絞りの選択肢、近接撮影能力)がヤシカの比ではありません。というより、ヤシカA IIIに制約が多すぎるのです。とにかくマミヤC330の自由自在に操れる感触は、撮影の楽しみを大きくひろげてくれます。


被写体にレンズを向け、望む画が得られるように自分が前後左右に動き回る。最高速500分の1秒のシャッターを活用して絞りを開け、ギリギリまで寄れば主 たる被写体のバックはきれいにボケてくれる。好きな空間の一部を象徴的に切り取り、心の風景を描き出すという私の手法を可能にしたカメラ。これと同じことをやろうとしても、可能な二眼レフは世の中には存在しません。



マミヤとヤシカを並べた画像


写真:
C330とヤシカフレックスA III(右)



佐久のマミヤ前で記念撮影


写真:
2013年夏、念願のマミヤ工場を訪ねて記念撮影(長野県佐久市)



2006年の夏、友人からセコール65mmF3.5をいただきました。ビューレンズは白く濁り、シャッターは粘ってしまう。フィルターねじも歪んでガタガタ、ということで涙無しには見られないコンディションだったものを、マミヤのサービスセンターに持ち込んで復活させました。F3.5の明るさと広い画角、これも素晴らしい!


135mmで切り撮る。65mmで掬(すく)い撮る。私の視覚は、このカメラに直結する・・・そういう感覚があります。


私はこれからも、この写真機で横浜を撮り続けたいと思っています。このカメラを胸に抱いて横浜の街を歩くとき、私は本当に豊かな時間を過ごしていると実感します。マミヤC330プロフェッショナルfは、私の横浜を写すための理想の写真機です。(2004年9月9日 記・2014年11月9日 更新)





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