15秒の物語


(2004年4月)



私の脳裏に

散らかったままの

"ものがたり"と呼ぶには

小さ過ぎる

妄想のかけら














坂道の途中の喫茶店で

少女は恋人を待っている

スペイン史の講義が終わると

彼は大急ぎで駆けてくる














春が来たら

少女はまた 歌うのだろう

喜びが

彼女に満ち溢れて



南風が吹いたら

三度目の春が来るから














毎週日曜日

青年は同じ場所に座って

画を描いている


ピンク むらさき パステルグリーン


彼の筆が

世界を不思議な色に染めてゆくのを

飽かずに眺めてる

少女の髪が 風に 揺れてる














その少年が

手に触れたものは 全て

凍りつくと云う



大切なものに触れることができない と

少年の心は沈んだ



最後に少年は

自分の胸に 触れたと聞いた



私の指は

温かいですか 冷たいですか














老人は言った

ルスはとても賢い犬だよ

わたしの気持ちが分かるのだから

よろこびも かなしみも

口に出さずとも分かり合える

一緒に喜んでくれる

一緒に泣いてくれる



詩人は帽子を手に持ったまま

老人の後ろ姿を

いつまでも見送っていたよ














心の中に

かなしい日付があります



やがていつか

少女は振り返るのでしょう

痛みさえ感じなかった

でたらめな日々を














長い一日が終わろうとしていた

途方に暮れた少年は

ようやく 顔をあげた

明日、もう一度やってみよう

もし駄目だったら?

翌日 またやってみればいい



幾度も 幾度でも














「かなり重いね。」

「え?そうかなあ。」

「お前、ちゃんと支えてないだろ。」

「そんなことないよ。」

「うぅ、こっちは重たくてしょうがないのに!しっかり支えてよ!」

「ちょっと、アナタたち。静かにしてよ。重いんだから。」














ぼくは色あせてゆくだろう

ぼくは乾いてゆくだろう

冷たい風に吹かれながら

いつまでもぐるぐる回ってるだろう

そしていつか、誰もいない場所で

土にかえってゆくのだろう














私はいつもこの席に座るの

もう20年 ずっとそうしてるのよ

ほら この席からは

イエスさまのお顔が よく見えるでしょう



ああ ほんとうですね

イエスさまがよく見えますね



なんてすばらしい 日曜日














昨日 少年は街を出た

少女は一人残された



少女はほおづえをついたまま

時計が17時を告げるのを聞いた



少女は信じてる

必ず戻る と 言った

約束を














日が暮れたなら

はかなく消えてしまう

つかのまの よろこび



私に似た おおかみは

どんなに涙を 流したろうか










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