チノンCM-4

Chinon CM-4



映画好き御用達 シンプルな機械式一眼レフ


チノンの機械式一眼レフ。2003年春に恵比寿の大沢カメラで購入。



チノンCM-4画像

写真:
チノンCM-4(チノン24mmF2.5付)



写真をはじめるずっと前から、チノンにあこがれていました。八ヶ岳に行く度に、帰りに茅野を通る度に「チノン」の看板を見て心がなごんでいました。


日本のスイス、信州といえば精密機械の一大中心地。茅野のチノンは伊那のオリンパスとならんで私の中で「もう理屈抜きに応援してしまう光学機器メーカー」なのです。


たとえばニコンを使う人は半ば伝説にもなっている歴史的名機たちの高性能っぷりやF一桁台のモデルに代表される質実剛健さにひかれるのでありましょう。キヤノンのEOSを使う人はたとえばスポーツ写真やポートレート写真に興味があって、すぐれたピント合わせ機構や豊富なレンズ群に強くひかれるのでありましょう。


では、他のメーカーの製品に惚れ込む人にはどんな理由があるのでしょうか。たとえばオリンパスは医療機器の分野で強いというイメージがあります。病院で見かける顕微鏡はたいていオリンパス。そのせいかオリンパスを使う人は「理系」で「自分なりに納得のゆく理由があってあえてオリンパスを選んでいる」のだろうと想像するのです。じっさい私の持病の主治医は大のオリンパス党でいらっしゃいました。


若い頃、仕事の取引先の担当者が大のペンタックスファンでした。仕事の話がひとしきり済んで雑談になると、趣味の写真について語ってくれたりしました。この人は「ニコン、キヤノンのような大きな存在ではないけれど、すぐれた製品をつくる第三の存在=ペンタックスが好き」みたいな事を言っていました。こういう発想、価値観は私も好きですね。チャレンジャー的な存在感といいましょうか、応援したくなる何かがあります。


では、いったいどんな人がチノンを選ぶのでしょうか。こう言ってはチノンの関係者の皆様には申し訳ないけれども、プロの使用に耐え得るような製品をつくっていたメーカーとは到底思えないので、写真好きな人が積極的に選ぶとは考えられない。ふと思ったのは、チノンは8ミリ(シネカメラ)の分野で有名だったメーカーだということです。どちらかというと8ミリのシネカメラがメインだった。で、8ミリが廃れてゆくのにつれて会社事態もじわじわと低空飛行に移っていったような。そう、世の中には


映画好きだからチノンを選ぶ

8ミリカメラでチノンを愛用しているからスチルカメラもチノンにする


という人が結構いたのではないか・・・などと思ったりします。いや、じっさいはそんなケースは稀(まれ)であったかもしれない。むしろ、あまりカメラに詳しくない人が、こだわりを持たずに何となく安いのを買おうと思ってカメラ屋に行き「ペンタックスとレンズマウントが同じで便利です」などと店員に勧められてついチノンに手を出す・・・そういうケースが多かったのではなかろうか。チノンはOEM生産に軸足を据えたメーカーだったようですし。


まあ、私自身としては「シネカメラで有名だったメーカーの一眼レフだから」というのを後付の理由にして、チノンファンを公言したいと思います。


チノン株式会社は1990年代に入ってからコダックの資本傘下に入り、2004年7月1日に社名を「株式会社コダック デジタル プロダクトセンター」に変更しました。私の愛したチノンという名は関連会社の「チノンテック株式会社」に残るのみとなった時代もありました。その後チノンブランドでヒートウォッチャー(温度・湿度を計測し熱中症の可能性を警告する腕時計のような機械。買ってみたもののあっという間にこわれた)なる商品を世に送り出すなど不思議な路線を歩んだりもしましたが、2014現在はチノンブランドで往年の名機ベラミ(麗しの恋人という洒落たネーミングがイカす)の名を冠したデジタルシネカメラなどを出しているようです。とても嬉しく思います。


前置きが長くなったので、話をCM-4に戻しましょう。チノンの一眼レフにはいくつかの系列がありますが、絞り優先AEを装備したCEシリーズ、マニュアル露出の機械式カメラCMシリーズ、プログラム露出等の多機能化にこたえたCPシリーズが主たる3つの柱でした。CMシリーズはニコンで言えばFM系列にあたるメカニカル一眼レフで、露出計の動作以外には電池不要。私はせっかく一台チノンを持つのなら故障の可能性が少なく長く使えそうな機械式にこだわろう、あこがれだったブラックボディにしようと思ったのでCM系を気長に探していました。


ある日、恵比寿にある大沢カメラのホームページでCM-4ブラックボディを発見したので、すぐ見に行きました。50mmF1.7のちいさなレンズ付。おお!こういうチノンが欲しかったのだよ。ということで即決。


いったいいつごろのモデルか分からないのですが、おおよその察しはつきます。先代のCM-3はM42マウントでしたが、これはKマウント。ペンタックスの Kマウントが登場してほどなく発売されたに違い有りません。


それにしてもシンプルなのです。シンプルすぎます。


シンプルその1、ファインダー。ファインダー内表示は何もありません。文字通り窓があるだけ。露出計のLEDはファインダーの外側に縦に3つ並んでいて (コシナ製フォクトレンダーBESSALがこんな感じだったような)、ファインダーに目を近づけるとボヤーっと見えるのです。露出オーバーなら上が赤く、アンダーなら下が赤く光る。適正なら真ん中が緑に光るという・・・いやはや、ネガフィルムならこれで充分ということですな。普段マミヤC330fで単体露出計(スポットメーター)を使っている身からすると、実に便利であります。ところがしばらく使っているうちに、この内蔵露出計が動作しなくなってしまいました。緑色に光るあの「ゴーサイン」感が味わえなくなったことは、かえすがえすも残念であります。まあ、古い機械だからしょうがない。機械式カメラなので露出計が使えなくなっても撮影そのものには何の影響もないのがヨイね。CMシリーズを買ってよかった。


シンプルその2、セルフタイマー無し。どうやらCM-4sというモデルには装備されるらしい。それはいいけれど、セルフタイマーのレバー付けたい位置に赤 いLEDが付いていて、シャッターを切ると光るという意味不明な機能が付いています。あのー、じゃまだし事実上指に隠れて見えないんですケド。露出計の故障とともに、これも光らなくなってしまった。個性的なのが自慢だったので、ちょっと寂しい。


シンプルその3、その他何も無し。多重露光機能とか分割巻き上げとかそういうのはナンもないです。


ここまで単純だと操作に迷いが出るはずもない。何か余計なことをしようという気にもならない。まさにシンプル・イズ・ベストの極み。いいねえ。こういう単純な機械だーい好き。


ボディはプラスチックだし、シャッターのショックも大きいし、プロはおろかいわゆるカメラ好きの人たちからはおそらくノーマーク状態のマイナーな写真機。これを撮影依頼がきたときにさりげなくメインに使ったりするのが工房 エゾモモンガのおそるべき真実なのだった。


交換レンズはチノンの50mmF1.7、24mmF2.5の2本を所有しています。50mmはペンタックスのリアコンバーターと組み合わせて100mmの中望遠レンズとして主に使用。むしろ素晴らしいのは24mmF2.5で、マルチコートされた前玉の毒々しい紫色がなんとも美しく、とてもよく写ります。このレンズ一本でスペインのトレドの旧市街を撮影散歩してみたいような衝動に駆られます。


2005年1月、それまで愛用していたペンタックスZ-20Pおよびレンズ、アクセサリを全て下取りに出しオリンパスのデジタルカメラ、E-300を購入しました。135フィルムからデジタルへの完全移行をもくろんだのです。でも廉価ズームをつけたE-300は暗所に弱い。こうなると影が薄くなってきたと思われたCM-4 への注目度が再び急上昇。たとえば50mmF1.7のレンズをつけたCM-4にカラーネガフィルム、ナチュラ1600を入れると「暗所はE-300をしのぐカメラ」となります。フィルムは偉大だなあ。E-300のピント合わせのトホホさやISO高感度のノイズなんて許してやろうよ!という気持ちの余裕が生まれるのは、いざとなったら頼りになるフィルムカメラがあるからだな。

私の最後の135フィルムカメラ、CM-4。デジタル全盛時代になって、なおさら愛おしく思えてきました。もう今後はコスト高になるフィルムでわざわざ撮影する機会もないでしょうけど、手元に置いていつまでも大切にかわいがってあげようと思います。ときどきシャッター速度をあれこれ替えながら~シャッターを切り、あそんでいます。チノン、だいすき。(2005年2月2日 記・2014年11月9日 更新)



ストロボを装着した画像


写真:
ニッシンのストロボ装着であやしさ倍増





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