クラシックギターのカスタマイズ

〜プリアンプシステムのインストール&フラメンコ仕様への改造〜

2016年3月28日




私の愛用ギターの写真





中古で入手した古いクラシックギター、ヤマハG-70Dにアンダー・サドルのピエゾ・ピックアップとチューナー機能付プリアンプLC-5を組み込み、エレガット仕様に改造してみようという試みです。あわせて、ゴルペ板を装着してフラメンコの奏法に耐えるものに仕上げます。

なお、このページでは楽器の改造について扱います。ギターへの穴あけやピックアップの取付など、自信のない方は楽器屋さんに依頼されることを強くお薦めします。楽器の改造は全て自己責任となります。このページと同様の方法で失敗しても当方は責任をとれませんのでご承知おきください。



もともと、このギターはネットオークションで安く入手したものです。ボディは汚れ、フレットはくすみ、糸巻きの金属は腐食し、何時張ったのかわからない弦が真っ黒になっていました。楽器としては問題がなさそうだったため落札してみました。そんな経緯で所有したギターですから、加工するのに抵抗はありません。

まずは大掃除するところからはじまったのですがそのへんは割愛。ピカピカになると印象もずいぶん変わるものです。一通り綺麗にしてしまえば悪くない楽器であります。前のオーナーに(たぶん)あまり愛されなかった分、わたしがめいっぱい可愛がってやろうと思います。

前々から「雨の日にもソフトケースに入れて気軽に持ち出せるサブのギター」が欲しいと思っていました。アンプにつなげるエレガットならなおいい、と思っていました。今回入手したギターがエレガット化されればまさに理想のセカンド・ギターとなるでしょう。

というわけで話はプリアンプをインストールする所からはじまります。





1. 用意するもの


まずはプリアンプの選定・購入です。私はAmazonマーケットプレイスで買えるものの中から選びました。クラシックギターですので使えるピックアップはピエゾorマイク、もしくはその併用ということになります。アンダー・サドルタイプのピエゾピックアップを使い、チューナー機能付きで値段の安いBelcat社のプリアンプシステムLC-5を選びました。購入時の価格は1,795円。この安さはナンなのでしょうか。中国から発送され、注文から14日で手元に届きました。封筒の簡易梱包でしたが開封してみるとプリアンプ本体の右上が割れていて、なんだかなーという状態でした。返品するほどでもないからそのまま使うことにします。



中国から届いたプリアンプLC-5




工作に必要な工具類は下記のとおりです。


 ・ハンドドリル(ドリル刃 直径2mm)
 ・大型のカッターナイフ
 ・養生テープ
 ・メンディングテープまたはセロテープ
 ・定規
 ・キリ
 ・ドライバー
 ・型紙:カッティングテンプレート(プリアンプのメーカー、Belcat社のサイトからダウンロード)※後述





2. ギターを養生して型紙を貼り付ける


Belcat社のプリアンプシステムLC-5をギターにインストールするには、ギター側面に大きな穴を開けなければなりません。私はジグソーや電気ドリルといった便利な工具を持っていませんので、

「ギターに貼り付けた型紙に沿って小さな穴をハンドドリルでたくさんあけてゆき、さいごにカッターナイフでその穴をつなぐようにしてカットする」

という方法でいきます。合板ギターですからダンボールを切るような大型のカッターナイフで充分切れるはずです。まずはギターの、プリアンプ設置場所および電池ボックス設置場所の周辺に養生テープを貼ります。次にプリアンプの現物をギターにあてがい、位置決めを行います。プリアンプの曲線とギターの曲線がうまく合致するポジションを慎重に探します。

場所がきまったらそこにメンディングテープで型紙(カッティング・テンプレート)を貼ります。型紙はBelcat社のサイトからダウンロードできます、と言いたいところですが、製品ラインナップにLC-5は掲載されておりません。そこで、よく似た機種のPrener-LCの型紙を使います。イコライザーのバンド数が違うぐらいで使用方法も一緒、重要なプリアンプ裏面のギターへの設置部分は全く同じですので大丈夫です。

PRENER-LC.pdf (908.1KB)



養生して型紙を張った状態






3. 型紙に沿ってハンドドリルで穴をあけ、最後はカッターでくり抜く


型紙を貼り終えたら、いよいよハンドドリルで穴を開けてゆくのですが、ドリルの直径があまり小さいと穴を開ける回数が多くなって疲れるし、逆に直径が大きすぎると行程が雑になる可能性があります。ひとまず直径2mmぐらいがちょうどよいだろうと判断、慎重にドリルで穴をあけてゆきます。

型紙に沿って一周したら、こんどは破線をつなぐようにカッターを入れていきます。ミシッ、とか、メリメリッ、とか音がするので焦りますが、ここまできたら思い切り良くパワフルに突入したほうが仕上げが綺麗になります。無事に切り取る事ができたら、バリをカッターできれいにし、ヤスリをかけてエッジを整えましょう。几帳面な人はヤスリがけに時間を費やし、芸術作品のように仕上げるのだろうと想像しますが、しかしですね、どうせ隠れてしまう場所であります。プリアンプユニットがきちんと入りさえすればよいのです。仕上げはホドホドでヨシとする。

同様に電池ボックスの穴もあけましょう。こちらも変則的な凸型ですので慎重に。プリアンプと電池ボックスがサクッと入る穴ができたらそれでOK。



ギターにあけた穴





4. サドル下にピエゾ・ピックアップを仕込む


サドル下にピエゾ・ピックアップを敷設します。LC-5付属のピックアップはすさまじく太いため、私のギターのブリッジの溝にはまりません。これには参りました。溝を広く深く拡大し、あわせてサドルを作り直すというのはいくらなんでも面倒すぎるし、そんな技術力もありません。そこで、細い溝にも入るような「細いピックアップ」を別途入手しました。ソフトタイプというものです。これなら溝はそのままでも入ります。

ピックアップの厚さを考慮し、サドルの高さを削らなければなりません。ギターにもともと付いていたサドルがかなり汚くて、磨いても綺麗にならなかったので使用するのをヤメました。あらたにPick Boyのプラスチック製サドルを購入し、従来より約2.8mm低いサドルを作成しました。ということでサドルは新品です。嬉しいネ。

ブリッジの溝にピックアップを通す穴をあけます。6弦側に45度の角度でエイヤッ。

ピックアップをブリッジの溝に通し、その上にサドルをのせて試しに1弦と6弦を張ってみます。あくまでもテスト用、あとでちゃんと弦を張り直します。2本の弦を仮に張った状態でチューナー機能をオンにし、ピックアップがちゃんと高音・低音両方の音を拾うかチェックします。プリアンプが故障していない事も確認できます。問題がなければ弦を外し、次に進みます。



ソフトタイプのピエゾピックアップ





5. 電池ボックスとプリアンプの設置


最大の難関であるギターへの穴あけ&ピエゾピックアップの設営が無事に完了しました。あとはプリアンプと電池ボックスの配線をすませ、それぞれを木ネジでギターに設置するだけです。

サウンドホールに手を入れて配線を組むのは至難の業なので、先に配線を済ませてしまうのがポイントでしょうか。配線といってもピックアップや電池ボックスのコネクターをプリアンプにつなぐだけですから簡単です。プリアンプと電池ボックスを木ネジで固定します。そしてギター内部の配線が暴れないよう、要所でまとめてテープで胴の内側に留めます。これで設置工事は完了しました。6本の弦を張ります。弦高は12フレットで1弦が3.0mm、6弦が3.7mm。フラメンコ用として充分満足の行くレベルです。



配線をすませる





6. アンプにつないでみる (LC-5のレビュー)


シールドをアンプにつないで鳴らしてみましょう。ピエゾピックアップが拾った音がアンプから流れるはずです。

せっかくなのでLC-5のレビューをしておきます。これからプリアンプ選びをする人の参考になればいいなと思います。


 ・「5バンドイコライザー」「チューナー機能」「キャノン端子」という3点の装備に満足
 ・音色は普通(特に語るべきものはない)
 ・ひとことで言えば「安くて多機能なプリアンプ」


9Vの角電池を使用する、ごく普通のアコースティックギター用プリアンプです。5バンドのイコライザーを装備していますので音のバランスをとるのは簡単ですし、好みの音がつくりやすいと思います。音色はいかにもアンダーブリッジピエゾ、という音です。明瞭で切れ味のよい音、とでも言いましょうか。

クロマチックチューナーを装備しており非常に便利です。個人的にはプリアンプ内蔵のエレガットギター(エレアコギター)にチューナー機能は必須だと思っています。LC-5は液晶画面が大きく、またチューナーの表示が見やすいため誰でもその恩恵を存分に味わう事ができるでしょう。

LC-5の特筆すべき点は、キャノン端子を備えていることにあります。通常のシールドジャックに加えて、キャノン端子(XLR端子オス)が装備されています。レコーディングやPAに直接送るなど、便利に使えると思います。

私は「5バンドイコライザー」「チューナー機能」「キャノン端子」という3点の装備に魅かれてLC-5を選び、その点では満足しています。

不満点は大きく分けて3つ。ひとつは梱包。Amazonで注文し中国から封筒で届いたのですが、プチプチは広範囲にわたってツブれ、プリアンプの一部が割れていました。これには心底がっかりさせられました。最初に書いたように返品するほどでもないのでそのまま使いましたが、残念ではあります。当たり外れはあるかもしれません。もうひとつは電池の消耗。電池がなくなるのがちょっと早いかな、と感じます。

3つ目は、プリアンプシステム全体としての出音です。まあこんなもんか・・・というレベル。特筆すべき魅力、褒めるべき点などが無い。そもそも、ギターにピックアップを付けるということは、その目的を考えれば「ラインからいい音を出したい」という一点に集約されるわけで、あえてギターに穴をあけてまで大掛かりなシステムを積むなら予算をケチらずにもっと出音に定評のある「いいピックアップ」を積むべきだったな、と後悔しています。

とはいえ「性能を求めるなら最初からこんな安物を選ぶな」「生音らしさを求めるならアンダーサドルのピエゾを選ぶのがそもそもの間違い」と言われたら返す言葉もありません。安いギターには安いプリアンプ&ピックアップで充分だろう、ぐらいに安易に考えていた私が悪いのです。教訓。ピックアップはまず目的をはっきりさせてそれに見合ったものを導入すべし。

5段階で採点するなら星3つ。普通だから。私の気持ち的には星2つかな。モノは悪くないけど私が求める水準には達していないので辛口評価になってしまいます。

とはいえ、ギターへのインストールは簡単な部類かと思いますし、何よりもLC-5は価格が安いのがいいと思います。最初のほうでも書きましたが1,795円。コストパフォーマンスはきわめて高いです。生音らしさなどは過剰に追求せず、一般的な性能で安さを優先するなら非常に良い選択肢かと思います。「とにかく安くて多機能なプリアンプが欲しい」という方にはベストチョイスなのは間違いありません。ピエゾらしい明快な音が出て実用上はなんの問題もありませんし、なんといってもチューナー機能とキャノン端子がついているのですから。



クロマチックチューナー内蔵です





7. ゴルペ板の貼り付け&ストラップピンの取り付け


フラメンコの奏法に耐えるようにゴルペ板を貼り付けます。プラスチック製の、ピックガードのようなものです。フラメンコではピックは使いませんが爪をギターのトップに打ち付けてリズムをとる奏法があります。ギターのトップに爪でキズが付かないようにゴルペ板を貼るのです。

このギターはすでにトップが傷だらけなので今更感もあるのですが、今後さらに傷が増えるのもいやですから、ゴルペ板を付けることにします。透明のゴルペ板が普通に売られていますのでそれを購入するのがよいかと思います。値段は千円ぐらいです。今回は手元に100円ショップで購入した液晶保護フィルム(iPad用。一眼レフカメラの液晶保護のためにカットして使用した残り)があるので、それをゴルペ板の替わりにしようと思います。

張っておいた弦をいったん外し、サウンドホール周辺での作業に備えます。液晶保護フィルムは粘着式となっていますので、カッターナイフで形を整えて貼り付けるだけです。液晶画面に貼るときもそうなのですが、気泡が入らないように綺麗に貼るのはなかなか難しいですね。カメラに貼るときも苦労しましたが、今回ギターに貼るときもあまり綺麗にできませんでした。気泡はあまり目立たないのでヨシとします。無事にゴルペ板が装備できましたので、あらためてハナバッハのフラメンコ弦を張り直しました。これでもう、名実ともにフラメンコギターを名乗ってヨイでしょう。

最後にもうひとつ。私はギターストラップを装着して立奏するのが好きなので、ストラップピンを打ちます。腰痛持ちなので座って弾き続けると腰が痛くなっちゃうのです。所有する全てのギターにストラップピンを付けてあります。一般的にフラメンコでは立奏することはありませんが、自分が必要と判断したならつけちゃえばよいのであります。

使用するのは中国から取り寄せたストラップピン。2個セットで送料込293円でした。オーダーから6日間で手元に届きました。位置はネックの付け根といわゆるエンドピンの場所(ボディのお尻)です。キリで下穴をあけ、フェルトのスペーサーを挟みドライバーで木ネジを固定。これでギターストラップの装着が可能になりました。

お手製のエレガット・フラメンコ、これで完成です。2016年3月27日、ちょうど御復活祭の日の午後に完成したので「Pascuala」(パスクワーラ)と名づけました。ギター(guitarra)はスペイン語で女性名詞なので女性名です。セカンドギター(雨の日の外出用&プラグドでのライブ用)として存分に活用しようと思います。



ゴルペ板の装着とストラップピン打ち






8. (追加)糸巻きの交換


金属の腐食した糸巻きの動きが渋く、ギヤの動きが悪い。チューニングの度にイライラさせられます。こういう負のエネルギーって人生の無駄でしかないので、さっさと糸巻きを交換する事にしました。

装着するのはARIAのミドルレンジモデル、AT-250Cです。

アリアAT-250Cはネジ穴の位置がこれまでと異なります。そこで、古い糸巻きを外した後のネジ穴はつまようじの先端を木工用ボンドで埋める方法でふさぎました。ボンドがしっかり乾いたのを確認し、バリを丁寧にカッターナイフで削り取ります。つぎに新しい糸巻きを挿入し、それを付属の木ネジで固定して完成です。

ペグの動きがグッとよくなり、チューニング時のストレスから解放されました。ギターが新品になったようです。金色のパーツと黒いペグがとてもおしゃれで、気に入っています。






以上、中古のクラシックギターを自分の使用目的にあわせてカスタマイズする、というテーマで書いてみました。何かの参考にしていただけましたら幸いです。繰り返しになりますが楽器の改造は全て自己責任で行ってください。

それにしても、いろいろな工作を自分でやってみると楽器屋さんの「工賃」にも納得がゆくようになります。「工賃が高い」などと言ってはいけない。値切るなどもってのほか。楽器屋さんが丁寧に手間をかけて加工してくれるのには相応の金額がかかって当然、ということがよくわかりました。我々は「相応のサービスには相応の対価を支払う」という当たり前の事を忘れないようにしたいと思います。





※使用カメラ:FUJIFILM FinePix F800EXR

(2016年3月28日 記)





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